インプロとは?

インプロとは即興演劇のことです。台本も設定も役も決まっていないところから、プレイヤーたちはお互いを受け入れあいインスパイアしあいながらシーンを生み出していきます。

インプロはもともとは「即興」を意味する「Improvisation(インプロヴィゼーション)」の略であり、即興演劇にかぎらず即興音楽や即興ダンスを表すときにも用いられる言葉ですが、インプロ(Impro/Improv)と略されるときの多くは即興演劇を表しています。

インプロ

現在世界中で行われているインプロに大きな影響を与えているひとりが「インプロの父」と呼ばれるキース・ジョンストンです。キース・ジョンストンは役者が抱えるさまざまな問題を解決するために数多くのゲームを開発しました。また、インプロをショーとして見せるためのフォーマットも開発しました。

もともとは役者の訓練として行われていたインプロですが、現在では創造性・コミュニケーション・チームビルディングといった観点から教育においても活用されています。近年では日本においてもその教育的な価値が注目されています。

Why?
なぜインプロをするのか?

世界的に有名な演出家であるピーター・ブルックは、その著書『なにもない空間』を次のように締めくくっています。

Play is play. 劇は遊び。
Peter Brook

劇は根本的には遊びであり、特にインプロはその傾向が強いものだと思います。したがってなぜインプロをするのかというと、端的には「インプロは面白いから」と言えます。

しかし、その面白さが単純な遊びとしての面白さ(Funny)だけではなく、人間の探究としての面白さ(Interesting)にまでつながっているのがインプロの本当の面白さだと思います。

インプロをすると、その人が本来持っている素敵な部分や、反対にその人が現在持っている恐怖が表れてきます。

例えば、子どもと一緒に「森へ行く」というお話を作るとすぐに冒険が始まってストーリーはどんどん進んでいくのに対して、大人の場合はバッグの中身を確かめたりとなかなかストーリーを進めることができません。このような現象に対してインプロでは「大人はストーリーを進める能力を失ってしまった」と考えるのではなく、「大人はストーリーを進めることを恐れるようになった」と考えます。

Many teachers think of children as immature adults. It might lead to better and more ‘respectful’ teaching, if we thought of adults as atrophied children.
多くの教師は子どもを未熟な大人と考える。もし大人を萎縮した子どもと考えれば、もっとよく、もっと「敬意を持って」教えることができるかもしれない。
Keith Johnstone

キース・ジョンストンは「大人は萎縮した子ども」であると考えています。子どもの頃は躊躇することなく自分が思ったことを表現できていたのに、大人になるにつれてそのように表現することができなくなっていきます。そこには「こんなアイデアでいいんだろうか……」といった評価への恐れや、「これをやったらどうなるんだろう……」といった未来や変化への恐れがあります。

インプロをするうえではこういった恐怖を取り除いていき、自分のアイデアを素直に表現できるようになることを目指していきます。

しかし、インプロはそれぞれが自分勝手に振る舞うものでもありません。キース・ジョンストンは自分を素直に表現することと同時に「パートナーにいい時間を与える」ことを重視しています。

Your work is good if your partner enjoyed working with you!
あなたのパートナーが楽しんでいたならあなたの仕事はうまくいっている!
Keith Johnstone

キース・ジョンストンのインプロにおいて「うまくいった」とは、「いい演技ができた」「いいストーリーができた」ということよりも、「パートナーにいい時間を与えることができた」ということを意味します。そしてインプロを見るお客さんはプレイヤー同士がすばらしい関係を持っていることを見て、それを喜びに感じて笑うと考えています。

インプロをするということは、自分を素直に表現することと相手にいい時間を与えることを両立させようとすることです。それは本当にいい関係を作ることと同じことで、本当に難しいことです。自分を押し殺して自己犠牲をしたり、相手のことを考えずに自分勝手になるほうがずっと簡単でしょう。しかし、だからこそ探究しがいのあることだと思っています。

How?
どうやってインプロをするのか?

キース・ジョンストンは役者が抱えるさまざまな問題を解決するために数多くのゲームを開発しました。ワークショップではこれらのゲームを使ってインプロを学んでいきます。ここではいくつかのゲームを紹介します。

ワンワード

2人組から大人数までで行えるゲームです。ひとりひとことずつを話しながらストーリーを語っていきます。(例:昔々/山の中に/一匹の/狼が/いました。狼は/とても/強くて……)もし途中でつまったりストーリーがおかしくなったらみんなで「アゲイン!」と言って新しいストーリーを始めます。

難しいゲームなので失敗して当たり前です。重要なのは失敗したと思ったらすぐに「アゲイン!」と言ってやり直すことです。失敗をごまかそうとするとその場所は重い雰囲気になり、さらに失敗できない場所になっていきます。しかし、失敗をオープンにすればその場所はいい雰囲気になり、より安全な場所になっていきます。

サンキューゲーム

基本は2人組で行うゲームです。ひとりが体で形を作り、もう一人がそれを見て思いついた形で入っていきます。(例:「手を挙げている人」→「タクシー運転手」)ただし、形を見て何も思い浮かばないときは形を作っている人の体を動かして普通の状態に戻します。形を作っている人は入ってきてくれた場合も戻してくれた場合も相手に「サンキュー」と言って役割を交代します。

アイデアを頑張って考え出そうとするのではなく、自然に思い浮かんだものを表現することがポイントです。頑張ってアイデアを出そうとしている自分に気づいたら、それに固執せず相手を戻してあげればオーケーです。「アイデアが出ない自分」も受け入れることで、「アイデアを出さなきゃいけない」という恐怖を取り除いていきます。そしてその結果としてアイデアが出やすい自分になっていきます。

次どうなるの?

基本は2人組で行うゲームです。ひとりが相手に「次どうなるの?」と尋ね、相手は「森へ行きます」というように提案をします。尋ねた人は提案にインスパイアされたら実際に2人でそれを演じます(森の中を歩く)。提案されたことをしたら、再び同じ人が「次どうなるの?」と尋ね、提案する人が再び「小屋を発見しよう」というように提案することでストーリーを作っていきます。ただし、尋ねた人が提案にインスパイアされなかった場合はかわいく「ノンッ(Non)」と言って終わります(役割を交代するバージョンなどもあります)。

提案する人はいいストーリーを作ろうとするよりも、パートナーにいい時間を与えようとすることがポイントです。そして尋ねる人は自分に正直に提案を受け入れたり断ったりすることが大事です。本当はインスパイアされていないのに遠慮して受け入れると、お互いに楽しくない時間を過ごすことになります。ただし、厳しく「ノー!(No!)」と言うと提案する気持ちがなくなってしまうので、あくまでもかわいく「ノンッ(Non)」と言います。このゲームのエキスパートになるためには何千回とやることが必要です。そのためにも楽しくやることが大事になります。

イルカの調教ゲーム

イルカ役の人がひとり舞台に上がり、他の人は調教師役としてイルカに聞こえないようにやってほしい動き(例:正座する)を決めます。ゲームが始まったら調教師はイルカにその動きを教えますが、言葉で教えることはできません。イルカが自由に動き回っているときにやってほしい動きに近づいたら(例:しゃがむ)「リン」という合図のみでイルカに動きを教えていきます。イルカがやってほしい動きをできたら終わりです。なかなか分からずイルカが困っているときは調教師がヒントをあげます。もちろんお互いギブアップしても構いません。

このゲームで学ぶ主体はイルカではなく調教師です。そしてゲームが成功したか失敗したかは重要ではなく、イルカが自由に楽しく学べたかが重要になります。イルカ役の人に恥をかかせる無茶振りゲームではありません(そうなっていたらうまくいっていません)。学ぶ・教えるということに対してとても示唆に富むゲームだと思います。

また、ゲームを用いずとりあえず短いシーンをやってみて、そのシーンをより良くしていく中で学ぶという方法もあります。興味を持たれた方はどうぞワークショップに参加してみてください。